冬に廊下や浴室で寒さを感じる、窓に結露がびっしりついている、夏は日差しが強く、お部屋がムワッと蒸し暑い…そんな住まいの悩みを「冬は寒くて、夏は暑いなんて当たり前」と我慢されていませんか?
実は「夏暑く、冬寒い家」は、快適に過ごせないだけでなく、健康にも影響を及ぼす恐れがあります。長い人生を健康で自立して生きていくために、自宅の断熱についてぜひ一度考えてみましょう。
平均寿命と健康寿命
「平均寿命」と「健康寿命」の違いを知っていますか?
健康寿命とは、自立した生活を送れる期間のこと。平均寿命に比べて、男性は約9年、女性は約12年も短いということがわかっています。
つまり、寝たきりや認知症など「日常生活に制限のある期間」が10年前後あるということです。
家の暑さ・寒さと健康寿命の関係
健康寿命を縮めてしまう要因の一つが、家の暑さや寒さだと言われています。
真夏に熱い部屋で過ごしていて熱中症になったり、冬の寒さでヒートショックを起こしたりと、ときに命にかかわることもあるのです。
ヒートショックの事故死は交通事故の4倍!?
ヒートショックとは、主に冬の寒さによって起こる健康被害の一つ。急激な温度変化で血圧が大きく上下すると、心筋梗塞や脳梗塞など体にさまざまな悪影響を起こすことがあります。
例えば、冬の入浴。寒い脱衣室で裸になると血圧が急上昇し、そのあと熱いお湯につかることで急激に血圧が低下します。心筋梗塞を起こしたり、失神して溺水したりと大変危険です。
東京都健康長寿医療センター研究所によると、2011年にヒートショック関連で入浴中に死亡した方は約17,000人。同じ年の交通事故による死亡者数の約4倍の方が亡くなっているというのです。
ヒートショックは寒冷地より温暖な地域で起こりやすい
ヒートショックが起きやすいのは、北海道や東北地方など寒い地域だと思っていませんか?
しかし入浴中の心肺停止の発生率を都道府県別に見ていくと、意外なことに北海道や青森県などは下位になっています。
この理由が、住宅の温熱環境だと言われています。寒い地域では住まいの高断熱化が進んでおり、冬でも家全体が暖かく、気温差が少ないというわけです。
温暖な地域ほど住宅の断熱化が不十分な傾向にあり、「暖かい場所=リビングなど」と「寒い場所=廊下や浴室、トイレなど」の温度差が激しく、ヒートショックを起こしやすい環境になっています。
古い家と新しい家の断熱性能の違い
最近の新築住宅だと断熱性能は高いことが多いですが、築年数の古い住宅では不十分なことがほとんど。冬に廊下や浴室でヒヤッとした寒さを感じることも多いでしょう。
築30年の家 | 新しい家 | ||
---|---|---|---|
断熱材の厚さ | 壁 | 30mm | 100mm |
床 | 25mm | 100mm | |
天井 | 40mm | 180mm | |
窓 | サッシ | アルミサッシ | 樹脂サッシ |
ガラス | 単板ガラス | Low-E複層ガラス |
最新の住宅と、築30年の住宅を比べると、壁・床・天井の断熱材の厚さは約3~4倍。窓は樹脂サッシや複層ガラスを使い、夏の暑さや冬の寒さを室内に入れにくくしています。
こんな問題はありませんか?
-夏- なかなかクーラーが効かない窓の近くへ行くと日差しで暑い冷房フル稼働で電気代が高くなる2階の部屋が蒸し風呂のよう | -冬- エアコンではあまり暖かくならない廊下や窓の近くでヒヤッと寒さを感じる浴室、トイレが寒くて、行くのが億劫毎朝、窓に結露がついている |
住まいの断熱性能を上げれば、これまで悩まされてきた暑さや寒さ、湿気などの問題の解消につながります。
夏は涼しく、冬は暖かい住宅環境が整えば、夜はぐっすり眠れて疲労回復。活動的にすごせるので、健康寿命が4歳ほど延びるという研究結果もあります。
断熱リフォームの2つの方法
では夏の暑さ、冬の寒さを解消するための、断熱リフォームの方法を2つご紹介します。
窓リフォーム
建物のなかで窓は最も多くの暑さや寒さを伝える場所。夏は7割、冬は5~6割の熱が、窓から出入りすると言われています。
窓の断熱はいくつか対策方法があるので、代表的なリフォームを見ていきましょう。
内窓の設置
今ある窓の内側に、新しい窓を追加する方法です。窓が二重になることで、断熱・防音・防犯効果が高まります。既存の窓を壊さなくていいので、施工がかんたんで費用も安く、最もお手軽なリフォーム。管理規約に縛りのあるマンションでもおこないやすいです。
複層ガラスに交換
サッシはそのままで、単板ガラスを断熱性の高いガラスに交換する工事です。二重のガラスの間には空気の層があって、熱を伝えにくくなっています。さらにハイグレードの「Low-E複層ガラス」は特殊な金属コーティングがされており断熱性能が高いです。
窓全体を交換
実はガラス以上に断熱性能を左右するのがサッシ部分。熱を伝えやすいアルミサッシから、熱を伝えにくい樹脂サッシに交換すると断熱性能がぐんと高まります。しかし、窓のまわりの壁を壊すなど大掛かりな工事となることが多く、費用は高めです。
カバー工法
窓サッシ全体をくりぬいて交換するのは大変なので、最近よくおこなわれているのがカバー工法です。窓ガラスをはずし、古いサッシの上から新しいサッシをかぶせ、新しい窓ガラスを取り付けるかたちで窓全体をリフォームしていきます。見た目もきれいで、サッシ+ガラスの断熱性能を高めることができます。
床断熱リフォーム
床下に断熱材を加えて、足元からの冷えを防ぐリフォームです。室内側から施工する方法と、床下側から施工する方法とがあります。
室内側から床断熱リフォーム
床の張替え工事と同時に断熱材を入れる方法です。床をはがして、室内側から断熱材を入れていきます。フローリングなど床材の古さが気になる、床材を別の種類に変えたいといった方におすすめです。
床下側から床断熱リフォーム
戸建住宅であれば、床をはがさなくても裏から断熱材を入れられる可能性があります。点検口などから床下に入って、断熱材を充填・吹付していきます。床をはがす必要がないため、施工が1日ほどで済み、費用も安いです。
まとめ
夏の暑さ、冬の寒さによるヒートショックなどの発病リスクは深刻な問題です。冬に2度室温が高い住宅で暮らすことで、健康寿命は4歳延びたという研究結果も。
もちろん断熱リフォームには費用がかかりますが、将来的な介護費用や時間のことを考えると、十分に元を取ることができるでしょう。ぜひご家族が元気なうちに、断熱リフォームについて考えてみてくださいね。
記事の監修者
設計士
西村佳晃
一級建築士 / 一般耐震技術認定者 / 宅地建物取引士
建物の構造に関する判断を行い、 地震に強く、安心して住める『強い家』を設計。プランナーの提案する図面を建築基準法に基づいた設計基準に照らし合わせ、 必要な補強を行い、採光などバランスの一番良い設計図面として仕上げます。
建物の構造に関する判断を行い、 地震に強く、安心して住める『強い家』を設計。プランナーの提案する図面を建築基準法に基づいた設計基準に照らし合わせ、 必要な補強を行い、採光などバランスの一番良い設計図面として仕上げます。